【書籍】「筑波山と山岳信仰 講集団の成立と展開」

本書は宗教民俗学・歴史社会学・経済社会論の観点から筑波山信仰を包括的に分析した専門的な書籍です。
特に、筑波山周辺での大当講や蚕影信仰などの地域信仰の実態を知りたい方にとっては非常に貴重な資料となります。
基本情報

書名 筑波山と山岳信仰 改訂新版: 講集団の成立と展開 (ふるさと文庫 93)
著者名 西海 賢二
出版社 崙書房
出版年 2012/12/1
ページ数 169ページ

すでに入手しにくい状況で、高値になっています。
私は図書館で借りてきました。
概要
筑波山神社とその信仰を中心に、地域社会に根ざした民間信仰や講組織の実態を多角的に分析した研究書です。
筑波山信仰の歴史的展開や組織的機能に加え、松塚や高岡村における大講の具体例や「御本講」といった特別な講にも言及しています。
また、大当講や女人講、十九夜・二十三夜講などの地域信仰の特徴、さらには蚕影神社と関東地方に広がる養蚕信仰についても詳しく考察されています。
信仰が果たす社会経済的な役割や、講による地域結束の形成にも注目した構成となっており、筑波山周辺の民俗信仰を体系的に理解する上で貴重な一冊です。
著者は「筑波山麓の村々を歩き始めて四十数年が経ちました」とあとがきで述べています。
筑波大学大学院歴史人類学研究科史学専攻博士課程を修了した後、歴史学、民俗学にかかわったようです。
山岳信仰や民俗学分野で数多くの書籍を出されています。
気になったポイント
筑波山周辺地域の講の活動
実家が石岡市です。
下の図の範囲内なのですが、本書で書かれているような講の活動を聞いたことがありません。
ただ”さんのんさま”(山王講?)とかいうご近所での祀りがありました。
60代、70代以上の世代ならば講の経験があるのかもしれませんが、
その下の世代になると、引き継がれていないのではないかと思えます。

筑波山に関する格言
筑波山に関する格言は、筑波山が地元の人々の暮らしや自然観、文化風習と深く結びついてきた実例といえるでしょう。本書で触れられていたものを挙げます。
「筑波の雷様は音ばかり」
筑波山の雷は音が大きいが、実際に被害が少ないことを指す。
転じて「口ばかりで実害のない人」の例えとしても用いられることもあるようです。
ただ石岡市で農家をしている両親は「雷は光るけど、その割に雨にならない」ということをよく言います。
もともとは実際の現象を示す言葉のように感じました。
「筑波に雲かかれば雨」
筑波山に雲がかかると雨になるという、地元に伝わる天候予測の言い伝えです。
「虹が筑波にかかればその日は雨」
筑波山の方向に虹が見えると、その日は雨になるという気象観察に基づく俗信です。
山があれば大気状態も影響を受けます。
身近な存在だからこそ言葉として残っているのでしょう。
「筑波に行く馬鹿、行かぬ馬鹿」
筑波山に登るのは大変だが、一度は行く価値があるという半分冗談まじりの言い回し。
まとめ
宗教民俗学・歴史社会学・経済社会論の観点から筑波山信仰を包括的に分析した専門的な書籍です。
文献と実際の民俗資料を基にした調査が記載されています。
筑波山周辺での大当講や蚕影信仰などの地域信仰の実態を知りたい方にとっては非常に貴重な資料となります。
用語
本書で扱われている筑波山周辺の民間信仰・宗教文化・講組織の用語をまとめました。
- 筑波山神社
- 茨城県つくば市にある神社で、筑波山を神体とする。伊弉諾尊と伊弉冉尊を祀り、縁結び・夫婦和合・五穀豊穣を祈る。
- 椎尾山薬王院(しいのおさん やくおういん)
- 筑波山南麓の真言宗の寺。薬師如来を本尊とし、眼病平癒・病気平癒の祈願寺として古くから信仰を集める。
- 天引観音(あまびきかんのん)
- 筑波山西麓にある観音堂。安産・子授け・月待信仰の場として女人講や地域の人々に信仰されている。
- 常陸国蚕影神社(ひたちのくに こかげじんじゃ)
- つくば市にある養蚕の守護神を祀る神社で、全国の蚕影神社の総本社。木花開耶姫命などを祭神とする。
- 筑波山信仰
- 筑波山を神聖な山とする信仰。男女二神を祀ることから、自然崇拝・夫婦和合・五穀豊穣の象徴とされる。
- 加波山信仰(かばさんしんこう)
- 筑波山北西の加波山に対する信仰。農業神・火防の神・修験道の霊場として広まり、地域の講も存在。
- 足尾山信仰(あしおさんしんこう)
- 筑波山と加波山の近隣にある霊山。薬師信仰や山岳修行と関わりが深く、椎尾山薬王院などと関係する。
- 大当講(おおとうこう)
- 地域講中が年番で「大当人」を出し、筑波山神社に参拝し神札を持ち帰る。五穀豊穣・家内安全を祈る年中行事。
- 御六神講(おろくじんこう)
- 六柱の神々を祀る民間講。宿番の家で神棚を設けて祭りを行い、家内安全・農業繁栄を祈願する。
- マケ氏神(まけうじがみ)
- 戦いに敗れた者の霊を慰めるために祀られた神。怨霊化を防ぐ鎮魂信仰の一種。地域の氏神としても扱われる。
- 女人講(にょにんこう)
- 女性だけで構成される信仰講。安産・子授け・縁結びなど、女性の生活と身体に関わる祈願を行う。
- 十九夜、二十三夜
- 旧暦の19日・23日の夜に行われる月待講。月を拝み、安産・無病息災を祈願する女性中心の信仰行事。
- 犬そとば
- 女人講などで安産祈願や出産報告の際に立てる犬の文字が入った卒塔婆(そとば)。犬は安産の象徴。
- 北条の秋葉講
- 筑波山北麓・北条地区の民間講。火難除けの神・秋葉権現を祀り、家内安全・火伏せを願って参拝する。
- 養蚕信仰(ようさんしんこう)
- 蚕(かいこ)を神聖視し、豊かな繭の収穫を祈る信仰。蚕影神社や金色姫伝説などと深く関係し、農家の生活と直結していた。
参考情報

